- Design -
これでもかと詰め込んだアイデアたち。
賑やかだけど、決して喧しくならないよう心がけました。
１日をワクワク過ごせる、靴のデザインについて。
アシンメトリー
本作品の特徴の一つになるのが、アシンメトリーなつま先の切り返し。実はこのライン、本来なら違う場所に施される予定だったもの。試作で作った別のパーツを、たまたま木型に被せたところ、うまくはまったので、そのままの線をトレース。本品を象徴するラインとなりました。
靴には様々なトウの形や、呼び名がありますが、そのどれでもない形が出来上がったのではないかと思います。履き込み、甲皺がたくさんできたとき、この線がどんな表情に変化するのかを想像しながら歩いてください。
“サビ” ６ミリ厚のキャップ・トゥ
つま先の芯には立体感を持たすため、６ミリ厚のヌメ革を使用しています。水に浸して柔らかくなったそれを、釘を使って木型に固定し、丸１日乾燥させたら、次はそれに革をかぶせ、さらに吊り込みます。作業はとても難しく、時間を要するのですが、靴をポップミュージックにたとえるなら、ここが“サビ”にあたる部分だと感じたので、妥協しないよう努めました。
4、5、6、7と厚みを変えたり。段々にしてみたり、フェードアウトしたり。様々な形にトライしながら落ち着いた、６ミリ厚のキャップ・トゥ。今まで体感したことのない、つま先の存在感をお楽しみください。
素材の強さと優しさ
革の持つ可能性をどのように引き出すかが、作品を創るうえでの大切な要素になってくると感じています。今回はアラスカというイタリアンレザーをメインに使用しました。2～2.2ミリある、靴のアッパーに使うには厚い部類にはいるアラスカ。その魅力は何といっても野性的で強い表情なのですが、触っているうちに、それとは異なる、繊細で優しい側面も併せ持っていることに気づいてきました。
そこで今回は、革の切り口に施す加工の仕方を分け、素材の持つ強さと優しさを、１足の靴の中に存在させることにしました。履き口やタン部分は切りっぱなしで強さを。カウンターやつま先の切り返し部分は、折り込んで優しさを表現しています。素材の持つ魅力を、存分に味わっていただければ幸いです。
お皿のようなソールと、積み木のようなヒール
ソールにはディッシュ・ソールと呼ばれる、お皿のようにまるく、反りあがった靴底をご用意しました。このソールを本デザインと組み合わせることで、より一層エンターテイメント性のある、ユニークで自由な靴になったと思います。また踵周りは、まるで積み木を重ね合わせたような形のヒール構造となり、360度、どの視点で切り取っていただいても、わくわくするようなデザインとなっているのもこのソールの特徴です。ソール、ヒールともに、様々なカラーでオーダーいただけます。
＊ディッシュ・ソール以外にも、様々な製法（ハンドソーン、ノルベジェーゼなど）でオーダーいただけます。試着用サンプルを比べながら、お好みでカスタマイズください。
履き口の、申し訳なさそうに存在する帽子について
デザインのテーマを“音楽”とし、様々な仕掛けを詰め込みながら完成した試作品に、いまいちパンチがないと感じた時の失望感はとてつもないものでした。何が足りないのか。それとも根本から間違っているのか。今一度テーマに立ち返り、あの時（＊1）の感情と対峙したとき、湧いてきたアイデアが「履き口の申し訳なさそうに存在する帽子」でした。キャップ・トゥ。アシンメトリーな切り返し。ディッシュ・ソール。それだけ詰め込んでも、足りなかったのは仕掛けの数。靴を創りながら、人々を虜にさせるポップミュージックの凄さを思い知った瞬間でした。
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